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『 最後の扉を閉めて 』 [海外作家]



『 夜の樹 』 収録。

ドライなものが 読みたかった。

感傷的だったり、ユーモアがあったりするもの ではなく
ましてや 感動的でもない ものを。

読後、さきに述べたことと、合致するではないかと 思いつつも
少々、あくの強い 印象だった…。

ウォルターという男は、人を信じていないし、人から信頼や
親しみの情をもたれているとも、はなから 思っていない。

司祭のような 存在として、色々な 話しを 聞いてもらっている
アンナという友人がいる。だが、自分のよくないところを 指摘され
気分を害すと、その彼女のことまで、他人に 悪評を流す しまつ。

そうやって、親しい人の陰口も 平気で言うから、それがやがて
当人の耳にも入ることになり、その結果(自業自得なのだが)
結局 まわりは敵ばかりだと、感じるようになる。

そして、誰からも愛されていないことに 気づくのだ。(そりゃそうだろ)
四面楚歌 という言葉が、ぴったり当てはまるような、そういう話し。

でも、そういう人が 真に求めているものは、詰まるところ 人との
深い繋がり だったりするものだから、皮肉的な 内容だなと。

ウォルターの夢の中は、彼を とりまく状況を よく表しているうえに
夢一つとってみても、そこに、世界が確立されているような 描写は
とても 魅力的だ(夢魔だけど)。

黒い葬式の車の行列。どのドアも 開いたかと思うと閉じられる。
それぞれの車から、知人やらが、大声で 笑いながら、次々とバラ
を投げてくる。 そして、車の行列は滑らかに 去ってゆくのだ。

ウォルターは、おそろしい叫び声をあげて 山のように積み上げられた バラの中に 倒れてしまう。棘が 体を引き裂き、傷だらけになる。突然の雨、暗い土砂降りの雨が、 バラの花を散らし、葉の上に流れ出た 青白い血を洗い流す。


(詳しくは知らないが) 『叶えられた祈り』という本により
また実在人物の内輪話も数多く描かれていたので、社交界の人々を激怒させた。

カポーティは 社交界を追われ、(くわえて 他の理由もあるのでしょう)
破滅へと向かっていったらしく、この物語の彼と、何か重なる気がした。


余談だが… (この短編は、そういう話しではないけれども)

『 最後の扉を閉めて 』が いつ頃 執筆されたのか、分からないが
カポーティは若くして、文壇の寵児となったらしいが、このバラと 棘の
比喩が、賞賛と批判は 常に一緒に もたらされるということを、何だか
あらわしているようだと、私はかってに思った。

下記は、印象的だったところを、断片的にだが抜粋してみた。

扇風機の回る音に 耳を傾ける。ひそひそ話のように 回転しつづける扇風機。 彼がああいった、きみがこういった、彼らがああいった、われわれがこういった。噂話は早く、ゆっくりとまわり続ける。限りないお喋りのなかでときおり時間がたったのを思い出す。古ぼけた、壊れた扇風機が 静寂を破る。

ともかく、嫌いということは少なくともひとつのはっきりした態度ではある。

失敗はそれなりに完璧な確実さだ。

すべての行為は、恐怖から生まれる。

経験というものは、どの一瞬も切り離したり、忘れ去ったりすることの出来ない、 ひとつの つながった円のようなものだと、彼は強く思った。

見かけどおりのものなんて世の中にあった?


トゥルルルー 今、電話がなっております。






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