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『 光ってみえるもの、あれは 』 [K.H]



川上弘美 著 / 中公文庫


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友がいて、恋人がいて、ちょっぴり規格はずれの「家族」がいて。いつだって〈ふつう〉なのに、なんだか不自由。生きることへの 小さな違和感を 抱えた、江戸翠、十六歳の夏。みずみずしい青春と 家族の物語。


題には 惹かれるものがあり、いつかは 読もうと思いつつも、主人公が
少年なのと、(幼児に近いくらいの おとこの子が出てくる、児童文学とかは
可愛らしいから、興味あるけど)

青春小説(その定義も、よく分からないが)というカテゴリーに、なかなか
興味が わかなかった。


今回、改めて思ったのは、川上さんは 女性視点の描き方のほうが、やはり
魅力的 だということ。飄々としつつも、ちょっとした 哀しみやら、微笑ましさなど
あの(一見)やわらかい文章の なかに、そういう感情が ぽっと 表出される。

それによって、胸の中のどこかを、ツンと 突かれるような 感じになり、その
感覚を ときどき 思い出して、ふいに 惹かれたりする。

その、どこか 可愛らしい感じを、たまに こそばゆくも思い、少しずつ 手にとる
機会が 減ってきていることに、最近 気づいた。それを、分かりづらい例えに
すると (要は、私の 居る場所では ないって、ことなのかな・

高さ 調節できる パイプ椅子を、最初に変な位置で 固定してしまって、座り
心地を よくする為に 直したいのに、なぜか 照れがあって、その状態のまま
座ったっきり、足は宙ぶらりんで、一向に 足先は床につかず、甘いパフェや
クリームソーダを、所在なく つついている、そういうかんじ。



感想に もどるとして

少年にしては、たまに、難しい言葉使いを したり(祖母の影響 といえば
座りがいいが) こんな子いないよな… という 違和感は、多々あった。

でも、そもそも、少年のリアリティなど、私にわかる訳も ないので、文章や
雰囲気を 味わえればいいと、読み始めたが、物語の波にのれないまま 頁を
捲るのは、少し しんどかった。

そして、読了後、心の中から 何かしらの湧き出てくるものが、あまりない と
いうのが 正直な感想。もっと 多感な時期に 読んだとしても、それは 同じような
気がする。つまらないとか、面白いとか そういう判断とは また違うかんじで。

ただ、さらり とした感触として 残ったのは、登場人物 それぞれ、各々の
(大事、という意ではなく) 問題なりを 抱えながらも、淡々と 生活をおくって
いるあたり なんかは、小説としての、盛り上がりには かけるかもしれないが
日常は、そんなもの かもしれないなと。


重層的に、友人やガールフレンド との 関係の中で、色々なことを 考えてゆく
過程も 大切なポイントだとは、もちろん思うのだが、この本は
(籍の入っていない父親) 大鳥さんと、翠の 距離の物語だったのだろうな。

小さい頃から、時々家に訪れる、父親らしき人。家族という枠組みで、生活を
共にしてこなかった、大鳥さん。翠は、その彼と、いわゆる 『家族』 という距離に
まで、近づこうと しているように 感じた。

大鳥さんも、そういう想いは あったとしても、翠には 母親と祖母という、家族の
かたちが すでにあるのだから、どうこうする きっかけすら、なかったように思う。

なので、二人の距離が 縮まりそうな シチュエーションとして、最後の章あたりは
その流れが、巧い感じがする。(すこし、驚いたが)

分かりやすく、家族になるのだ というより、一人の人として 理解してみよう
という 気もち なのかもしれない。

そういうことを、考えられるように なることが、成長というもの なのかも…
と、あまり 成長していない自分が言うのも、気後れするが(´艸`;)

本の中で、引用されている、ジャン・コクトオの 詩が 印象的だった。

偶作
君の名を彫るがよい  やがて天までとどくほど  大きくなる木の幹に。

立木の方が大理石よりも得なんだ。  其処に彫りつけた名も成長する。


光ってみえるもの、あれは

この題が すきだ。 いつか、この言葉と、何かの瞬間が ぴたりと重なる時が
私に おとずれるような、予感がする。

それは、予感でしかないが( ..)






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