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『 今夜の泊まり 』 [海外作家]




ジュンパ・ラヒリ 著 / 『 見知らぬ場所 』  収録

小川高義 訳

読んだものの 覚え書き。 

抜粋した部分から、文章に勢いをかんじた。


アミットの学生時代の 淡い恋心。

グリーティングカードなどでの、ゆるい縁があった(その相手)
パムから、結婚式の招待状が 送られてきて、妻と 式に出席する。

そのパーティで、アミットは フェリシアという女性と 同席する。
彼女は、婚約しており、結婚生活や 家庭をもつことなどを
アミットに 質問する。(妻のメイガンは、他の人と話していた)


━ p.144
「消えたんですよ」と、また言った。さっきよりも語調が強くなっている。「いずれは誰にでもそうなります」 フェリシアは表情をこわばらせていた。「何てことを」と、不快感を隠さない。「よりによって結婚式で言うなんて」

ところがアミットは当然のことだとしか思わない。二番目が生まれてからは、どうしたら夫婦が同じことをせずに、それぞれの時間を持てるかという工夫をこらしていた。メイガンが休みをとれる日は娘たちの面倒を見て、アミットが公園でランニングできるようにする。あるいは、その逆なら、メイガンが本屋をぶらついたり爪の手入れをしてもらったりする。

そういう時間が楽しみになってくると、しまいには一人で地下鉄に乗っていることにその日の幸福を感じるというような、ひどい事態にもなる。

つまり生涯の伴侶を求めて、やっと見つけたその人と家庭を築いて、子供が生まれ、またアミットのような場合であれば 夜ごとにすれ違いの悲哀を 噛みしめるというのに、いつしか孤独こそが 味わうべきものとなり、ちまちま小分けしたような分量であっても、なんとか一人の時間があるおかげで、かろうじて正気を保っていられるというのだから、ひどい事態なのである。

そんなことを言ってやろうかと思ったが、すでにフェリシアが乗り気ではなさそうだった。


アミットという人物の半生が、ぎゅっと詰まっているような一編で
記憶に残る。(この一編では、彼が インドの方)

アミットは医学生だったが、勉学に熱心になれずドロップアウトし
現在は、医学系の雑誌で 記者をしている。

五歳年上で、ともに医学生だった 妻は、医師になり 忙しい日々を
送っている。

パムへの、淡い恋心は発展せず、でも後に 妻となる人との出会いがあり
子どもをもうける。子供を愛する気もちとは、別のところで、忙しい妻
との時間が合わず、夜ごとにすれ違いの悲哀を 噛みしめる、このかんじが 印象的だ。

ラヒリさんの本を 読んでいると、家族とか人生、もしくは日常って
何なんだろうと思う。

大げさにではなくて、こんな事のくり返し…や、そもそも 心の中に
漠然と持っている そういうことに、読むことで あえて気づいて
しまったりする、この行為も なんだろうと。

淡々と平穏に おくる日々の中で、人々が投げやりになったり、諦めや
落胆ばかりを抱えている訳では ないけれども、でも 何ともいえない
虚しさは、じわじわ伝わってくる。

しかし、著者は 本の中の登場人物を、そういう中へ ただ 放り込んで
いるようには思えないから、私は また 読んでみたくなるのだろうな。

(一つ短編を 開くと、ゆるやかな始まりから、気づくと
惹きこまれているのだが、それが何なのかは 未だによく分からない)

そして、海を越えた処でも(米 在住の作家さんなので)、そういう
ふとした時におとずれる 虚しさ、という感覚は一緒なんだなぁ…と
なんだか不思議な 気もちになる。




同収録の 『 地獄 / 天国 』。


(語り手は、叔父さんと いっているが、父親の血縁者ではなく
そういう風に 呼ぶように いわれていた人物)

母親の、叔父さんに対する 秘かな恋心。結末の方で、その想いの
深さが窺える エピソードが 描かれる。

外からは 平穏に見える人々も、色んな想いを抱えて 生活している
のだろうな…と感じさせる、そんな 一編だった。







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