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『 偶然の祝福 』 [O.Y]



小川洋子 著 / 角川文庫


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お手伝いのキリコさんは私のなくしものを取り戻す名人だった。それも息を荒らげず、恩着せがましくもなくすっと―。伯母は、実に従順で正統的な失踪者になった。前ぶれもなく理由もなくきっぱりと―。リコーダー、万年筆、弟、伯母、そして恋人―失ったものへの愛と祈りが、哀しみを貫き、偶然の幸せを連れてきた。息子と犬のアポロと暮らす私の孤独な日々に。美しく、切なく運命のからくりが響き合う傑作連作小説。



題と、装丁のデザインから、かってに 心温まる物語だろうと 思い込んでいて
本棚に並べたまま だったが、 『 貴婦人Aの蘇生 』 読了を機に、手にとった。

当初 想像していた雰囲気と、全く違う 印象だったので、すっと 入ってゆけた
ような気がする。

また、この本の流れがあり、それが さらに深化して 『 原稿零枚日記 』 へと
繋がっていった のではないだろうか… そんな風に 感じた。

とちらも、主人公は 作家で、(理由は違うが)原稿を書けなくなることに 対して
大きな不安感に苛まれ、日々を おくっているところが、共通している。

『 偶然の祝福 』のほうの 感想にもどるが、7つの短編が 収録されているとは
いえ、連作なので 主人公は 同じ人物。

読み始めて すぐ感じたのは、主人公から伝わってくる、不安定さ。

各短編ごとの 織りなす エピソードに、それは それとして興味深く よんだが
私は この本から純粋に、書くこと 書けなくなること、物語を 創造することの
苦悩などが、一貫して 伝わってきた。

『貴婦人』つながりで、最後に 収録されている 『 蘇生 』を、最初によんだ。

この本を 初めから読み、『 蘇生 』に もう一度ふれると、それが 組み込まれる
ことによって、主人公を 取り巻いていた、危うい 感覚や世界に、微かな光が
射しているように 思い、読後、暗い印象だけとは ならなかった。


『 エーデルワイス 』 の結末で、音楽が聴こえてくる描写があるのだが、そこが
伏線を含め、巧みだなぁ… と (偉そうに)感心してしまった。

『 時計工場 』は、著者の 小説へ向かう想いなどを、垣間見られたような気が
して、興味深い 一編だった。


偶然の祝福。 

わたしにも、何かあっただろうか…?。





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