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『 三度目で最後の大陸 』 [海外作家]




新潮文庫 『 停電の夜に 』 収録の 一編。 

小川高義 訳

全部で 9編が 収録されているのだが、私が読んだのは まだ4編。
表題作、病気の通訳、セクシー、そして 記事タイトルに
あげた 一編。

他 5編は 未読なのに…。 
訳者が、この物語を 一押しに挙げる 理由は、とても よく分かる。

訳者としての仕事が ひと段落したいま、あえて好みを 言うならば、「三度目で最後の大陸」を 一押しに 挙げたい。


移民男性の 一人称語りに 視点を据えて、しかも男の名前を 明かさず(この点では インド女性が 夫の名前を呼ばないという習慣に 助けられたろうか)、したがって誰の物語でもいいような 普遍性を持たせた上で、新しい国になじむことと 新しい夫婦がなじむことを リンクさせたストーリーである


作者にとっては 両親の世代である移民たちへの オマージュともいえる 仕上がりだ。ほとんど長編を 読んだあとのような、ずっしりした感慨が 残るのではなかろうか。


タイトルから、話しが壮大で ドラマチックなもの だろうと、
かってに 連想していて、柔軟な気もちの 時じゃないと、筋を 追うのが
大変そうだなと…思っていた。

レビューで、良かったと 評していた方が 多かったので、読み始めたら
想像していた億劫な 印象ではなく、むしろ

おしつけがましくない ドラマチックさ、とでもいえばいいのか
とにかく 訳者の言葉にもあるように、とても 感慨深く、余韻の残る
物語であった。

語り手の男性は、インドから ロンドン、そしてアメリカへと渡ってゆき
大学の図書館員として 職を得るのだが

異文化の 様々な違いの中で、切磋琢磨しながら 最後の地に 辿り着き
そこで 三十年以上暮らしてきたのだから、やはりそれは、とても壮大な
ことだ。

でも、それらを、大仰な描写ではなく 読ませてくれるのが
ラヒリさんの筆致。


だから私は、すんなり文字を 追ってゆけたのだが、気づかづに

心の中に 少しずつ感動が 満ちていたようで、語り手が 息子に 伝えたい
という とこを見た瞬間、ぶわっと 涙が流れた。


男性の、未亡人になった母の 切ない話し、異国の地に
さして 親しくもない男性のとこへ 嫁いできて、新天地での生活に
一から慣れなくてはいけない 奥さん。

男性が、アメリカで間借りしていた家の主で、豪快なおばあさん。
息子の存在。そして初の月面着陸をなした 時代のエピソード。


それらが ポイントして、少し 離れた位置に在り、さりげなく 登場して
いたように、思えたものだから、物語の結びに向けて、そのすべてが
一気に 織り成すように感じた 瞬間は、とても 感動を覚えた。


おばあさんと 男性の、定型のような 会話のやりとりに
私は 心が温かくなり、すきな 描写だったが、これもまた にくい演出
というか、伏線に巧くつながるので、やっぱり すごいよな…。


そこはかとなく、力づけられるような 物語でした。







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