形づくるものは [O.Y]
久しぶりに、本を 読んだ。
『 凍りついた香り 』
小川洋子 著 / 幻冬舎文庫
今でも彼の指先が、耳の後ろの小さな窪みに触れた瞬間を覚えている。まずいつもの手つきでびんの蓋を開けた。それから一滴の香水で人差し指を濡らし、もう片方の手で髪をかき上げ、私の身体で一番温かい場所に触れた―。孔雀の羽根、記憶の泉、調香師、数学の問題…いくつかのキーワードから死者をたずねる謎解きが始まる。
冒頭で 知らされる、主人公の 恋人の死。
読み始めでは、そういう事が 起こった、という 認識しかなかったのに
主人公の『私』 の哀しみに、徐々に 近づいてゆく自分がいて、読了後
彼女に 寄り添うように、哀しい気もちに 浸っていた。
ルーキー(弘之)が、自ら死をえらんだ 真相は、謎のままだった。
彼は、そこから先、何も積み上げてゆくことは出来ないけれども
彼の 過去は膨大にある。
その過去の記憶の中に、紛れもなく 彼女の存在はきざまれている。
器用に、本の感想を 書けないけれども
わたしはこの本を読んで、よかったと思っている。
271頁に 書かれていることが、深く 胸に響いてきた。
「記憶するだけです。あなたを形作っているものは、記憶なのです」