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『 夢小説 』 [本 & 書評]



シュニッツラー著 / 池内紀 訳 ,岩波文庫
ふとしたことから 昔の秘密を 妻と打ち明け合うことになった医師 フリドリン。気まずさを 感じつつ、彼は往診のため 夜のウィーンへ出るが、そこで様々な出来事に遭遇する。さらに、偶然出会った友人と 奇妙な仮面舞踏会に 行くことになるが…



上記は、角川文庫 『 夢がたり 』からの引用。

キューブリックの遺作 『 アイズ・ワイド・シャット 』 の原作。

もう ずい分と 前に 観たので、ほとんど忘れてしまったが、映画 全体の
薄気味わるい雰囲気は、記憶にのこっている。

当時、いまいち内容を 理解しきれず、疑問に思ったところが 多々あったが
原作を 読んで、すっきりした。

映画の印象では、大仰な装飾に 惑わされていたが、実は とてもシンプルな
話し だったのだと 分かった。

フリドリンは、ふとした 妻の告白に、静かに 狼狽し 翻弄されてゆく。

妻が語った夢の内容にも、フリドリンは反応する。 そこを読んでいて、夢を語る
ことは、とても無防備な自分を 呈することになる のだなと、いつぞ考えたことを
思い返した。


男性の浮気心は、暗黙の了解のような風潮があるのに、女性が 夫以外の人に
気もちがあったと知ったら、男性は フリドリンのように 心中穏やかではいられない
のだろうか。

百年前のウィーンという、時代だったからなのか、それとも 現在でも同じなのか。

昔の女性の貞淑さを 強調するのは、なぜか欧州のイメージがつよいから、背徳
という言葉も、際立ってくるのかもしれない。

( 宗教的なことが 関係しているのかも。 その一方で、開放的な 印象もある…)


それと、欧州では 仮装舞踏会 というのもが、何か特別な意味を もっているように
常々 感じていたので 調べてみると、中世 貴族たちの間で 大流行したらしく

その一方で、”道徳や倫理を 麻痺させるという厳しい非難が 各界から浴びせられ
反対運動も 起こった” (ウィキペディアより引用)そうです。

アイデンティティーを 覆ってしまうというのは、かえって 暗示的だと思う。


妻の告白によって、翻弄させられた フリドリンだったが、迷い込んだ 世界により
妻に対する 複雑に入り組んだ想い(愛憎)が、露わになっていった。

秘密の会、行方知れずの友人、助けてくれた 裸身の女性、その女性の後の安否。
多くの謎が 散りばめられているのに、最後は 妻の存在を 大きく印象づけて 終息
してゆく物語。

うつつと 夢(?)の 境界があいまいで、薄暗い靄の中を さ迷っているような 危うさ
があるのにも関わらず、読後、ある一点 明白だったのは、明日また迎える 『現実』
があること。

単に、奇妙な物語として 面白かったが、こうして 感想を書いていると、どこまで
理解 できているのだろうかと、謎に思えてくる。


シュニッツラーの、他の作品も 気になります。





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