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ホテル・アイリス [O.Y]



小川洋子 著 / 幻冬舎文庫


紹介文より
少女と 老人が 共有したのは 滑稽で淫靡な暗闇の 密室そのものだった



17歳の少女 マリは、家が営んでいる ホテルを、手伝っている。

ある夜、宿泊客である 男が、娼婦と 騒動を起こし、女に罵声を あびせている光景を
みたマリは、その男のことを 忘れらなくなる。

男は、翻訳家で、島に住んでいる。男の印象は、老人というほど 年老いているように
感じないが、 少女より 50歳以上も、上らしい。

(短絡的 にいってしまうと)ようは、男はサドで、少女はマゾという かんじだろうか。
二人は、フェリーに 乗って 島に 向かい、翻訳家の家で、そういう行為をするのだが
夏の酷暑も、強烈な 要素として、背景に 組み込まれいる。

とはいえ、本の紹介にも あるような、単に SMのお話しですよ (もちろん、そういう
描写も 少なくないのだが)、とは違う 気がする。

この本、忘れた頃に、本棚から 取り出して、少しずつ 読んでいたのだが、それは、
いまひとつ、この世界観に 入っていけなかったから。また、読後、淫びな 内容である
からではなく、単に この物語から 何を感じとれば いいものやら、少々 困っている。


紹介文に、『 滑稽 』とあるが、後半の頁を 読んでいる時、なぜだか、ほんとうに ただ
滑稽に 思えてきてしまった。それは、暴力的な 描写や、また それを書いている著者に
対して そういう風に 感じた、というのでは ない。

しいていえば、たぶん、著者と 文章の間に、大きな距離を 感じたからだろうか。 

作家さんは、冷静な位置に留まり、その世界を 文字で こつこつと構築してゆくのだから
距離があって 然るべき なのでしょうが(また、そうあるべき というのを、よく見かる)、
サディスティクな描写を 綴っている時の、著者の妙な冷静さが、行間から なぜか ふと
垣間見れたように、私はかってに感じて、妙な 気分になったのだと 思う。

という訳で、小川さんの描く世界も 文章も、すき なのだが、この作品はうーん。


著者の作品を 数冊 読み、これを 読了し、ふと 考えが 巡った。

肉体や 内臓、からだの器官や 組織、そういうものに 執着的なまでに(良い意味ですよ)
つねに 意識してこられたであろう、作家さんだと 思っている。

しかし、性的な行為という、まさに 肉体が 顕著に関係してくるとこでこそ、これでもかと
描写するのかと 思いきや、意外と、さらりと しているように感じたのは、私だけか。

とはいえ、翻訳家の サディスティックな 行為を、さらに 知りたいのでは、決してない。



ある書評に、これは 作者の 実験的な作品かもしれない、とあり、いわれてみると
そういう印象も、これまた受ける。

だからか、読後の脳内世界が、いまだ描かれずに、描写の各パーツが、飛散している。
(読後、本の世界が、構築される 感覚ってありますよね?)

私は、この物語は、少女の 髪の毛が、大きな ポイントになっているような 気がした。 
容姿の美しい娘を、誇りに思う母親。娘である マリは、まるでその美しさを 独占される
かのように、母親から 容赦なくホテルの仕事を命じつけられ、自由を 奪われている。

その象徴のように、母は 娘の髪の毛を、きつく きつく 結いあげ続ける。だから、後半の
ある描写 にきて、作者は これを念頭に置いて、物語を 進行させていたのだろうかな…
なんて 推測したり。

マリが、翻訳家に 求めていたのは、母親から 受ける 束縛よりも、もっと 過剰で 異常な
こと、だったのでは ないだろうか。それは、母親に対する 反発のような衝動から。

…と、そんな風な 印象も もったのだが、それだと、あまりに文学的に 読み解かなきゃ
思考に 陥っていると 思うので、それも、 うーん しっくり こなくて。

単に、趣向の合う 男女が、出逢っただけの話し かもしれないし。という風に 解釈すると
そのわりには、それが メインだ という印象も また、受けない。


翻訳家の 手紙からの、抜粋。

移動遊園地が 来た日、わたしは 三時間 三十分もの間、待つ喜びを 味わいました。 傾きかけた西日を 背中に受け、汗だくになって 駆けてきた あなたの姿を、今でも 夢に見ます。156頁


この、西日を 背に受け 駆けてくる、というところ だけが、本来 女の子に そなわっている
きらきらとした 可憐さに 感じられて、もっとも 印象 深かった。

翻訳家が住む『 島 』 そのものが、死を 想像させる処に、どうにも そう感じてしまう。そして
それと 同様に、彼も あちら側にいるのではないかと思えるほど、生気を感じられないのだ。

なぜかといえば、翻訳家の家で、少女が 汗を滴らせる 描写があるのだが、それでも 冷気が
漂っているような 印象が、残っているくらいなのだから。



川上さんが、著者の作品中、最も すきな作品だと 書いていたが、どの辺りが どう すき
なのか、もっと 詳しく 知りたいところです。







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