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『 博士の愛した数式 』 [O.Y]






小川洋子 著 / 新潮文庫


「ぼくの記憶は 80分しかもたない」博士の背広の袖には、そう書かれた 古びたメモが 留められていた ―記憶力を失った 博士にとって、私は常に“新しい”家政婦。博士は“初対面”の私に、靴のサイズや 誕生日を尋ねた。 数字が博士の言葉だった。 やがて私の10歳の息子が加わり、ぎこちない日々は 驚きと 歓びに満ちたものに変わった。あまりに悲しく 暖かい、奇跡の愛の物語。




映画を観ていたので、雰囲気や物語の流れを、すぐに
捉える事ができ、また 印字されている文字が大きめで
はやく 読了できた。


時折、ふっと 込み上げてくる 切なさがあったが、それは
何に対してだったのか、登場人物への憐れみでない事は
確かだが、自分でも いまいち よく分からない。


著者の他の作品は、シュールレアリスム的であったり
感覚に 訴えてくるような 描写を含め、文章そのものに
深長さを 感じられるのが 魅力でもある。

だから、やさしい訴え、の感想で書いたように 自分の中で
結晶化されるまでには、すこしの時間を 要する。


しかし、『 博士の… 』は 他作品と違って、読みながら
すぐに伝わってくるので、とても 読みやすかったが
それは、今までの作風と 少し違う からでは ないだろうか。

数学という要素が(野球も)あるからか、主な焦点が そこへと
通じているかのようで、一文ごとの 描写に いつもより 余白が
あるような気がした。


すでに、数式と 博士の存在で、もう十分 充たされているから
あえて 簡潔に、描写していたのかもしれませんね。

だからといって、魅力的な物語である事には 何も 変わりがなく
この機会に 読めたことを、良かったと思っている。


(一番、後回しにするところでしたからね)


映画のラストシーンが、いまいち 何を意味しているのか
分からなかったが、原作を 読んでみて納得できた。

そして、その映像を もう一度 思い返すと、胸が じわじわと
温まってくる。






印象的な 言葉を、抜粋してみました。


目に見えない世界が、目に見える世界を 支えているという実感が 必要だった。 厳かに 暗闇を貫く、幅も面積もない、無限にのびてゆく 一本の真実の直線。 その直線こそが、私に 微かな安らぎをもたらした。「君の利口な瞳を 見開きなさい」 博士の言葉を 思い出しながら、私は暗闇に 目を凝らす。 180頁



利口な瞳を 見開きなさい、という言葉が『 蝶の舌
という映画で 印象的だった言葉

「君たちの頭の中は 神殿である」(たしか…)というのとの
類似を 感じて、とても素敵な言葉として 私の中で残っている。



πとiを掛け合わせた数で eを累乗し、1を足すと 0になる。 果ての果てまで循環する数と、決して正体を見せない 虚ろな数が、簡潔な 軌跡を描き、一点に着地する。 どこにも円は登場しないのに、予期せぬ宙から πがeの元に舞い下り、恥ずかしがり屋のiと 握手をする。 彼らは身を寄せ合い、じっと 息をひそめているのだが、一人の人間が 1つだけ 足し算をした途端、何の前触れもなく 世界が転換する。 すべてが0に抱きとめられる。 オイラーの公式は 暗闇に光る 一筋の流星だった。   197頁



ここの言葉、とてもすきだ。 

まるで、人と人との出会いや繋がりが、この数式の中で
表現されているようだし、また それを 数式と リンクさせて
しまうところも、印象深い。





博士には、新たな記憶を 蓄積できない 辛さがあるが
主人公とルートは 博士の言動や、博士との想い出を
共に、記憶に蓄積してゆくことが出来る。


博士に、自分たちを 覚えてもらえない寂しさは あると思うが
でも 私は この親子が、博士と過ごした時間を、二人の想い出
として共有してゆける、その事に 確かな 幸せがあると思った。


本屋さん大賞を 受賞し、映画化もされたからか
某サイトの レビュー数が とても多い。


星の数が少ない 感想を読んだ時、自分が ひいきの作家さん
だからかもしれないが

何かを踏み荒らされたような、気もちに おちいった (´Д`)=з


(星は、購入する人へ向けての、指標であるのは分かっているが)


本でも 映画でも何にしても、自分の中の何かに
染み込んできたら、星も点数も つけられないものだし


また つける必要も ないでしょしね。








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