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『 水声 』 [K.H]



川上弘美 著 / 文藝春秋


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紹介文

過去と現在の間に立ち現れる存在「都」と「陵」はきょうだいとして育った。だが、今のふたりの生活のこの甘美さ!  「ママ」は死に、人生の時間は過ぎるのであった。



表紙の装丁と、水声 という題に とても惹かれた。水の流れる音
という意が あるそうで、はじめて知った。

私にも 兄弟がいるが、この物語への 嫌悪感は、ふしぎと あまり
なかった。(そのままの 視点でみたら、奇々怪々だが…)

語り手である 都の、母親への思慕を みていると、単なる家族への
想い 以上のものを感じた。

もっと、根源的なものへの 望郷の念だったり、包み込まれたい
という 本能的な憧れなどを、漠然とだが つよく感じた。

母親のお腹という(時は違えど)、同じ場所に存在し、源が一緒で
遺伝子的にも ほぼ変わらない きょうだい というのは、奇妙な存在
だなと、改めて思う。


今作を読了し、物語の内容 云々ではなく、本当は こわい作家さん
であると いうことに、真に 気づいてしまった。

こわい、というのが 適切かどうかは 分からないが、確実に 不安を
あおられる というのが、しっくりくるかもしれない。

人の心がもつ 不明瞭さ、不定形なる 存在、人であって人でないもの
この世ならざる 領域、自分であって 自分でないもの…
中庸さや 曖昧であるという 範疇を、ゆうに飛び越えてしまっている。

著者は 他の作品でも、こういう描写が、表現の変化は あるものの
くり返えされ、一貫して 軸がぶれていないところが、また すごい。

そういう 不確かさは 畏れでもあるが、読書しながら、実のところ
無意識の 安らぎを 感じていたのかもしれないと 想像し、きゅうに
何だか おそろしい 事ではないかと、思った。

この世ではない処への 淡い憧れ…のような。
(自分で言いつつ、その説明が むずかしいが)


水声は、『 溺れる 』に収録されている、『 無明 』の雰囲気に
どことなく 似ているように思い、再読してみたら 違った( ..)

『 無明 』で登場する 男女は、接してはいけない 間柄ゆえ、
罰として、あやかしの類の のろいのようなものをかけられて
500年間 生き続けている、そういう話しだった。

これを 前回 読んだときよりも、思うことがあったが、それより
言葉の意のほうが、印象的だったので、なんとなく 抜粋。


真理に暗いこと。根源的な無知。人間などのもつ欲望や 執着心などの諸煩悩(ぼんのう)の根本にあるもの。十二因縁の第一。また、天台でいう三惑の一。








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